傷したので、手当を受けに江波まで出掛けた。ところが、それが却つていけなかつたのだ。道々、もの凄い火傷者を見るにつけ、甥はすつかり気分が悪くなつてしまひ、それ以来元気がなくなつたのである。あの夜、火の手はすぐ近くまで襲つて来るので、病気の義兄は動かせなかつたが、姉たちは壕の中で戦きつづけた。それからまた、先日の颱風もここでは大変だつた。壊れてゐる屋根が今にも吹飛ばされさうで、水は漏り、風は仮借なく隙間から飛込んで来、生きた気持はしなかつたといふ。今も見上げると、天井の墜ちて露出してゐる屋根裏に大きな隙間があるのであつた。まだ此処では水道も出ず、電燈も点かず、夜も昼も物騒でならないといふ。
 私は義兄に見舞を云はうと思つて隣室へ行くと、壁の剥ち、柱の歪んだ部屋の片隅に小さな蚊帳が吊られて、そこに彼は寝てゐた。見ると熱があるのか、赤くむくんだ顔を呆然とさせ、私が声をかけても、ただ「つらい、つらい」と義兄は喘いでゐるのであつた。
 私は姉の家で二三時間休むと、広島駅に引返し、夕方廿日市へ戻ると、長兄の家に立寄つた。思ひがけなくも、妹の息子の史朗がここへ来てゐるのであつた。彼が疎開してゐた処も、
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