二つの頭
原民喜
日曜日のことでした、雄二の兄と兄の友達が鶴小屋の前で、鶴をスケッチしていました、雄二はそれを側で眺めながら、ひとりでこんなことを考えました……何んだい、僕だって描けますよ、鶴だって、犬だって、山の絵だって、駅だって、街の絵だって、みんな描けます、僕の眼にちゃんと見えるものなら、それをそのとおり描けばいいんだから、だからなんだって描けますよ、眼に見えないものだって、美しい美しい天国の絵だって、それもそのうち描けますよ
雄二はだんだん素晴らしい気持になっていましたが、ふと何だか心配になりました、ほんとかしら、ほんとに僕は描けるのかしら……ふと、雄二はまだ明日の宿題をやっていないのを思い出しました、急いで家に戻って、机の前にすわりました、めんどくさい計算なので、雄二はすぐにいやになってしまいました、鉛筆をけずりながら、また雄二はひとりで、こんなことを考えました……いやになっちゃうな、こんな宿題なんか、僕の頭と兄さんの頭ととりかえっこすれば、すぐ出来るのに、首から上だけ、そっと、とりかえできないかなあ
それでも、雄二はしぶりしぶりその夜、宿題をしあげました、その夜、雄
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