ることをはじめてこの時知つたのである。
 その後、私はEを通じて時折、小村菊夫の消息をきかされるやうになつた。……小村菊夫は既に咽喉結核が昂進して病臥してゐること、彼の作品がある雑誌社に行つたまま抹殺されてゐること、そんなことをEはいつも悲憤に似た調子で話した。
 そのうち病気は絶望的になり、彼はもはや永遠の睡りに入ることしか望んでゐないといふことも私は耳にした。それから間もなく、小村菊夫の死亡通知を受取つたのだつた。
 彼が死んで十日目位にEが私のところに訪ねて来た。Eは告別式には間にあはなかつたのだが、小村家からその遺稿をあづかつて、私のところに持つて来たのだつた。その遺稿は近くある書肆から出版される手筈になつてゐた。その遺された原稿を読み、私はぼんやり考へ耽けるのであつた。

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神様、私の死にます日が美しく清らかでありますやうに。
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私の文学上のまた他の不安が、そして生涯の皮肉が、
きつと私の額の大きな疲れを離れるでせう
この日が大きな平和のうちにありますやうに。
私が死を望むのは、それは全く身振りを作る者達の
やうにではありません、本
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