空間現象を透視し、あらゆる時間的速度であらゆる時間的進行を展開さす呪ふべき装置だ。恥づべき詭計だ。何のために、何のために、僕にあれをもう一度叩きつけようとするのだ!)
 僕は叫ぶ。僕の眼に広島上空に閃く光が見える。光はゆるゆると夢のやうに悠然と伸び拡る。あツと思ふと光はさツと速度を増してゐる。が、再び瞬間が再分割されるやうに光はゆるゆるとためらひがちに進んでゆく。突然、光はさツと地上に飛びつく。地上の一切がさツと変形される。街は変形された。が、今、家屋の倒壊がゆるゆると再びある夢のやうな速度で進行を繰返してゐる。僕は僕を探す。僕はゐた。あそこに……。僕は僕に動顛する。僕は僕に叫ぶ。(虚妄だ。妄想だ。僕はここにゐる。僕はあちら側にゐない。僕はここにゐる。僕はあちら側にはゐない。)僕は苦しさにバタバタし、顔のマスクを捩ぎとらうとする。
 と、あのとき僕の頭上に墜ちて来た真暗な塊りのなかの藻掻きが僕の捩ぎとらうとするマスクと同じだ。僕はうめく。僕はよろよろと倒れさうになる。倒れまいとする。と、真暗な塊りのなかで、うめく僕と倒れまいとする僕と……。僕はマスクを捩ぎとらうとする。バタバタとあばれ
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