だ。その声も僕を揺るがす。みんなどうして生きて行つてゐるのかまるで僕には見当がつかない。みんな人間は木端微塵にされたガラスのやうだ。世界は割れてゐる。人類よ、人類よ、人類よ。僕は理解できない。僕は結びつけない。僕は揺れてゐる。人類よ、人類よ、人類よ、僕は理解したい。僕は結びつきたい。僕は生きて行きたい。揺れてゐるのは僕だけなのかしら。いつも僕のなかで何か爆発する音響がする。いつも何かが僕を追かけてくる。僕は揺すぶられ、鞭打たれ、燃え上り、塞きとめられてゐる。僕はつき抜けて行きたい。どこかへ、どこかへ)それから僕は東京と広島の間を時々往復してゐるが、僕の混乱と僕の雑音は増えてゆくばかりなのだ。僕の中学時代からの親しい友人が僕に何にも言はないで、ぷつりと自殺した。僕の世界はまた割れて行つた。僕のなかにはまた風穴ができたやうだ。風のなかに揺らぐ破片、僕の雑音、雑音の僕、僕の人生ははじまつたばつかしなのだ。ああ、僕の雑音のかなたに一つの澄みきつた歌ごゑがききとりたいのだが……。

 伊作の声がぷつりと消えた。雑音のなかに一つの澄みきつたうたごゑ……それをききとりたいと云つて伊作の声が消えた。僕
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