のやうな船は、岸の方へ続く板の橋をもつてゐて、そして船の入口のところの手摺に生きてる鴉が一羽縛りつけてあつた。その船を過ぎると、M神社の岸であつた。そこの岸には家が建つてゐないので、広々とした空が少し霞んでゐた。そして小さな石の鳥居や神社の甍や松が透いて見えた。雄二はお祭の時行つて賑やかだつたのを憶えてゐたが、昼のM神社はひつそりとしてゐた。そして石段のところには汚れた船が横づけになつてゐた。
川の中に、ところどころ水が乾いて白い砂の出てゐるところがあつた。水は次第に浅くなつて、覗くと底の砂や影の朧な蜆貝が見えた。砂も石塊も水と一緒にキラキラと速く後へ飛んでゆくやうに思へた。雄二はちよつと水に手を浸してみたが、冷たかつたのですぐ収め、今度はM神社の岸とは反対の方に目を向けた。すると、向岸の家並のなかに一軒赤い煉瓦の小家があつて、塀のうちに紅い花が咲いてゐた。それらの家並の屋根瓦の上に、さつきからH山が覗いてゐるのを雄二はやつと気がついた。低い小さなH山はぽつと屋根の上に持つて来て置いたやうな恰好だつた。山の輪廓はいくらか霞んでゐたが、たしかに雄二に今見られたので、ちよつと喫驚したやう
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