うな恰好の黒い格子の二階建が三四軒並んでゐたが、その家が何といふことなしに雄二には意地の悪い家のやうに思へた。そこの屋根の上から日蔭になつてゐる青空が魔のやうに覗いてゐた。そして、鏡のやうな空を黒い小鳥が横切つて行くのが、怕く思へた。雄二の家の在る方の側の岸は、家や樹木に日があたつてゐて、穏やかな眺めだつた。今、そちらの側に家並が杜切れて土手の広場が見上げられた。石崖の上は茫々と雑草が茂つてゐて、大きな樫の木は日の光を吸つてぐつたりした姿で空に聳えてゐた。すると白壁の土蔵が現れて樫の木の頭だけを空に残した。次いで枝ぶりのいい松の生えてゐる庭があつた。枳垣の透間から罌粟畑が見えた。硝子張りの二階の縁側には籐の寝椅子があつて、女の人がそこからぼんやりと川を見下してゐた。二階の軒の日覆はふわふわ動いてゐるのだつた。それから今度はまた違ふ家の二階が見えた。誰もゐないのか白い障子が立てきつてあつてアカシアの花が揺いでゐた。
そのうちに、ドドドドドと軽い響が伝はつて、K橋が見えて来た。水の上に映るK橋はドドドドと軽く揺れてゐるのだつた。雄二は自分のよく知つてゐる橋へ来たので、少し嬉しくなつた。何
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