学校の教室にゐたが、光線を見た瞬間、彼は机の下に身を潜めた。次いで教室は崩壊したが、机の下から匐ひ出すと、助かつてゐる生徒は四五名しかゐなかつた。みんなは走つて比治山の方へ向かひ、途中で彼も白い液体を吐いた。――かういふことを語る甥はいたつて平静であつた。一緒に助かつた友達と翌日、汽車に乗り彼はその友達の家へたどり着いた。そこで四五日滞在し静養してゐたのである。この神経質でおとなしい少年は、何か鋭い勘とねばりを潜めてゐた。奇蹟的に助かつたのも、偶然ではなかつたのかもしれない。だが、甥にとつての危機は決してこれで終つたのではなかつた。戻つて来た甥は二三日すると、私の妹と一緒に遠方の知人のところへ、野菜を頒けてもらひに出かけた。朝はやく出かけ、山一つ越えて行くのだつた。妹は昼すぎに戻つて来たが、甥は四五町さきの農家の軒下に蹲つてゐるといふことであつた。暑さと疲れのため、もうどうしても歩けなくなつたのである。やがて日が傾いた頃、甥は蒼ざめた顔で戻つて来た。まだ戦災の疲れも癒えてゐないのに、ここではみんなが空腹のまま無理をつづけなければならなかつた。台所の土間からつづく二畳の部屋が食事をする場
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