ながら進んだ。村道を突切り、田の小径を渡り、山路にさしかかると、棺を担ふ竹がギシギシと音をたてた。火葬場は山の中腹にあつた。いま、ここまで従いて来る男たちに私が気づくと、それはみんな年寄ばかりなのだつた。
 なかの二三人が棺を焼場の中に据ゑ、その下に丸太を並べ、藁を敷いて点火した。火は鉄の扉の向で燃えて行つた。
「それではあとはよろしくお願ひします」と、棺を担いで来た老人と若い未亡人がさきに帰つて行つた。人々は松の木蔭の涼しいところに腰を下ろして、暫く火の燃え具合を眺めてゐるのであつた。鉄の扉からは今も熾んに煙が洩れた。
「ほら、まるで鯔《ぼら》を焼くのと同じことだ。脂がプスプスいつてゐる」と誰かが気軽な調子で云つた。すると、一人が扉のところへ近づいて更に薪を継ぎ足した。暫くみんなは莨を喫ひながら、てんでに勝手なことを喋り合つてゐた。
「よく燃えてゐる。この調子なら、夜はお骨拾ひに行けるでせう」と一人の年寄は満足さうに呟いた。「では、そろそろ引あげませうか」と誰かがいふと、みんなは早速腰を上げた。淡々として、人々は事を運び、いくぶん浮々した調子すら混つてゐる。広島の惨劇がまだ目さきにち
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