ズキズキした顔が多かつた。
 ある日、役場の空地で、油の配給が行はれてゐた。どこに埋めてあつたのか、軍のドラム罐が今いくつもここに姿を現してゐたが、役場の若い男が二人、せつせと秤で測つては壜に注いだ。各班から壜を持つて集つて来る女たちは、つぎつぎに入替つたが、私のところの班だけは組長の手違ひのため一番最後まで残された。
 その秤で測つては壜に注ぐ単調な動作をぼんやり眺めてゐると、私はいい加減疲れてしまつた。だが、女たちはよほど嬉しいのだらう、「肩が凝るでせうね、揉んであげよう」と、おかみさんは油を注いでくれる青年の肩に手をかけたりした。
 ふと、役場の窓のところに、村長の顔が現れた。すると、みんなは一寸お辞儀するのであつたが、その温厚さうな、開襟シヤツの村長は、煙草を燻らしながら、悠然と一同を瞰下ろしてゐた。
「油をあげるのだから、この次には働いてもらはねばいかんよ。もらふものの時だけ元気よく出て来て、働くときには知らん顔では困るからね」と、ねつとりした、しかし、軽い口調で話しかけるのであつた。

  舌切雀

 ある朝、私は二階の障子を繕つてゐた。ひつそりと雨が降りつづいて、山の上の
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