である。人間の不安と混乱と動揺はいつまで続いて行くかわからないが、それに抵抗するためには、内側にしつかりとした世界を築いてゆくより外はないのであらう。
まことに今日は不思議で稀れなる季節である。殆どその生存を壁際まで押しやられて、飢ゑながら焼跡を歩いてゐるとき、突然、眼も眩むばかりの美しい幻想や清澄な雰囲気が微笑みかけてくるのは、私だけのことであらうか。
底本:「日本の原爆文学1」ほるぷ出版
1983(昭和58)年8月1日初版第一刷発行
初出:「日本評論」
1951(昭和26)年5月号
遺稿
※「人の世に見捨てられて死んでゆく少女のイメージの美しさが狂ほしいほど眼に沁みた。」の文は他の本では次のようになっている。
「定本原民喜全集II」(青土社 1978年9月20日発行)では「人の世に見捨てられて死んでゆく少女の最後のイメージの美しさが狂ほしいほど眼に沁みた。」とされており、「最後の」という言葉が入っている。
「原民喜全集第二巻」(芳賀書店 初版発行 昭和40年8月15日)でも同様に、「最後の」という言葉が入っている。
※冒頭の「お前が凍てついた手で」は、底本第
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