気絶人形
原民喜
くるくるくるくる、ぐるぐるぐるぐる、そのお人形はさっきから眼がまわって気分がわるくなっているのでした。ぐるぐるぐるぐる、くるくるくるくる、そのお人形のセルロイドのほおは真青になり、眼は美しくふるえています。みんなが、べちゃくちゃ、べちゃくちゃ、すぐ耳もとでしゃべりつづけているのです。暗いボール箱から出してもらい、薄い紙の目かくしをはずしてもらい、ショーウインドに出して並べてもらったのでみんな大はしゃぎなのです。
「自動車が見えるよ」
「わあ、あの人、可愛いい犬連れてたのしそうに歩いています」
「おお、早くクリスマスがやって来ないかな」
お人形たちは、みんなてんでにこんなことをしゃべっていましたが、そのなかに一人、今とても気分がわるくなっている人形がいました。はじめて眼の前に街の景色が見えて来たり、あんまりいろんなものが見えるので、そのお人形は目がまわったのかもしれません。そのお人形の顔は、とてもさびしそうでした。そのうちに、ほかのお人形たちも、その人形の様子に気がつきました。
「まあ、どうしたの、お顔が真青よ。早くおクスリ」と、誰かが心配そうにいいました。そうい
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング