われると、その人形は一そう青ざめて来ました。とうとう足がふるえて、バタンと前に倒れてしまいました。
 人形屋の主人は倒れている、そのお人形をとりあげて、足のところを調べてみました。別に足が痛んでいるわけでもなかったのでまたもとどおり、ショーウインドのなかに立たせておきました。
 くるくるくるくる、ぐるぐるぐるぐる、そのお人形はまた眼がまわって気分がわるくなりそうでした。べちゃくちゃ、べちゃくちゃ、みんなはすぐ耳もとでしゃべりつづけます。
「まあ、あんた、どうしたのお顔が真青」
 また誰かがこんなことをいいました。でも、こんどは一生けんめい、我まんしました。そのお人形は、あんまりいろんなものが見えてくるので、疲れるのかもしれません。生れつき、ほかの人形たちより弱いのかもしれません。でもじっと我まんしている姿は、とても美しく立派に見えました。今にもバタンと前に倒れそうなのに、眼は不思議にかがやいていました。
 ショーウインドの前に立って、熱心に人形をながめていた、一人の少女は、人形屋の主人をよんでその人形をゆびさしました。それから、そのお人形は少女の手に渡されました。その温かい手のなかにに
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