苦しく美しき夏
原民喜
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)陽《ひ》の光の圧迫が
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)彼|等《ら》二人が
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「さんずい+景+頁」、第3水準1−87−32]気《こうき》に
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陽《ひ》の光の圧迫が弱まってゆくのが柱に凭掛《よりかか》っている彼に、向側にいる妻の微《かす》かな安堵《あんど》を感じさせると、彼はふらりと立上って台所から下駄をつっかけて狭い裏の露次へ歩いて行ったが、何気なく隣境の空を見上げると高い樹木の梢《こずえ》に強烈な陽の光が帯のように纏《まつ》わりついていて、そこだけが赫《かっ》と燃えているようだった。てらてらとした葉をもつその樹木の梢は鏡のようにひっそりした空のなかで美しく燃え狂っている。と忽《たちま》ちそれは妻がみたいつかの夢の極致のように彼におもえた。熱い海岸の砂地の反射にぐったりとした妻は、陽の翳《かげ》ってゆく田舎路《いなかみち》を歩いて行
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