絵にそへて
原民喜

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)鞦韆《ぶらんこ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから横組み]
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 この絵は何処だとはっきり云はないがいいかも知れません。題は子供心のあこがれとでも云ふのでせうか。そこの島の八月、今から凡そ二十年も前のことですが、公園に始めてホテルが出来たのです。杉に囲まれた瀟洒な石の建築の脇には山から湧いて流れる溪流があって家鴨が白い影を浮かべてゐました。芝生の綺麗な傾斜に添って、白い砂利道を行くと、噴水のある滝の前に赤いポストがあり、鞦韆《ぶらんこ》に外国の子供が乗かってゐました。ある夕方、幼い私は姉と連れだって、その辺を逍遙ってゐると、突然ピンクのドレスを着た外国の娘が、[#ここから横組み]“Can you speak English ?”[#ここで横組み終わり]と姉に話しかけたのです。姉は黙ってつつましやかに笑ひ、その女は快活に笑ひ、そして私は彼女等がそれだけで何か私にはわからない一つの気持をやりとりしたかのやうに思へました。そこのホテルが出来た時、夜の公園にはアーク
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