燈が真昼のやうに輝き、杉と杉の枝に万国旗が掲げられ、そして沢山の人々が眼に怡びを湛へ、ざわめき合ってゐると、突然中央の四阿からオルケストラが湧き起りました。ふと私が眼を上にやると樹の間にある夜の空は明るい燈のために一層美しく思へ、大きな蛾がバタバタと燈のほとりを廻ってゐたものです。――そして翌日、八月の嵐は海の波を怒らし、雨まじりに、あのホテルの前の岸の大きな岩に、まつ白なしぶきを吹きかけ、吹きかけしたものです。その怒濤を見に、私を連れて行った姉は、彼女も十五年前に死にました。
底本:「普及版 原民喜全集第一巻」芳賀書店
1966(昭和41)年2月15日
入力:蒋龍
校正:小林繁雄
2009年6月18日作成
青空文庫作成ファイル:
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