。彼はすぐ外に出て一緒に散歩した。吉祥寺に移つてからは、逢ふ機会もなかつた。が、広島へ持つて行くカバンのなかに、彼はお嬢さんの写真をそつと入れておいた。……ペンクラブの一行とは広島で落合ふことにして彼は一足さきに東京を出発した。
倉敷駅の改札口を出ると、小さな犬を抱へてゐる女の児が目についた。と、その女の児は黙つて彼にお辞儀した。暫く見なかつた間に小さな姪はどこか子供の頃の妹の顔つきと似てきた。
「お母さんは今ちよつと出かけてゐますから」と、小さな姪は勝手口から上つて、玄関の戸を内から開けてくれた。その座敷の机の上には黄色い箱の外国煙草が置いてあつた。
「どうぞ、お吸ひなさい」と姪はマツチを持つてくると、これで役目をはたしたやうに外に出て行つた。彼は壁際によつて、そこの窓を開けてみた。窓のすぐ下に花畑があつて、スミレ、雛菊、チユーリツプなどが咲き揃つてゐた。色彩の渦にしばらく見とれてゐると、表から妹が戻つて来た。すると小さな姪は母親の側にやつて来て、ぺつたり坐つてゐた。大きい方の姪はまだ戻つて来なかつたが、彼が土産の品を取出すと、「まあ、こんなものを買ふとき、やつぱし、あなたも娯し
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