いて雀がチイチクチイチク飛びまはります。大勢の仔雀はそこで鬼ごつこをして遊ぶのでした。雀のお母さんと雀のお父さんは高い屋根の上からそれを見てをります。………」
空二はまた、うとうとと遙かな気持になつて来る。
「………その人の意地は、毒喰はば皿までといふ風なものでした。ですから、その人は世の中の立派な人々が避けてゐることや、碌でもないことには却つて夢中になる傾向がありました。そのやうなことをしてゐて、その人の疵は癒えたのでせうか。いいえ、ますますひどくなつてゆくばつかしでした。疵の痛みはまたその人を駆つて泥沼の方へ赴かせます。さうして、その人がある年齢に達した時のことです。その人は全くもう自分で自分をどうにもならないことを発見しました。その人は白痴のやうに寝そべつて、古疵の一つ一つを吟味しました。――あの時ああでなかつたら自分はかうなつてはゐなかつただらう。あの時ああなつたのはその前にあんなことがあつたせゐだ、あの際あんなことがあつたのはあの前ああならなかつたからだ。と、その人は繰返し、蒸返し、とりかへしのつかぬことを嘆じてゐました。――ああ、私を救つてくれ、私ははじめからやりなほした
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