い、なにもかも生れ変つて来なきや駄目だ。と、その人は悲しさうに呟くのでした。………」
何かに驚かされたやうに空二はハツと眼を開いた。しかし婦人は前と同じ調子でやはらかに喋つてゐた。
「その人のお庭で跳ねまはつてゐた仔雀が、一羽の仔雀が、ふと樋の端にひつかかつて怪我をしました。仔雀は痛いのでピイピイピイピイ泣き叫びました。お母さんの雀とお父さんの雀はさつそく手当をしてやりましたが、その子は翼を痛めたので、どうもうまく飛べなくなりました。そこで、お父さんとお母さんは相談して、雲雀のお医者さんに治してもらふことにしました。お母さんがその子を乳母車に乗せて、雲雀病院へつれてゆくのでした。………」
また空二は茫とした気持で眼を細めて行つた。
「………その人は消耗された精神と肉体とを抱いて生きてをりました。時間が後へ逆行してゆくことを夢みながら、その人は睡つてをりました。すると夢の中で、その人はふと目が覚めました。するとその人は乳母車に乗せられて、何処か訳のわからぬ場所へ運ばれてをりました。………」
空二はまた不思議さうにちよつと眼を開いた。婦人は「雲雀病院」の話をしてゐるらしかつた。
「…
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