してゐるだけだ」家に帰ると正三は妹の前でぺらぺらと喋つた。

 今にも雨になりさうな薄暗い朝であつた。正三はその国民学校の運動場の列の中にゐた。五時からやつて来たのであるが、訓示や整列の繰返しばかりで、なかなか出発にはならなかつた。その朝、態度がけしからんと云つて、一青年の頬桁を張り飛ばした教官は、何かまだ弾む気持を持てあましてゐるやうであつた。そこへ恰度、ひどく垢じみた中年男がやつて来ると、もそもそと何か訴へはじめた。
「何だと!」と教官の声だけが満場にききとれた。「一度も予習に出なかつたくせにして、今朝だけ出るつもりか」
 教官はじろじろ彼を眺めてゐたが、
「裸になれ!」と大喝した。さう云はれて、相手はおづおづと釦を外しだした。が、教官はいよいよ猛つて来た。
「裸になるとは、かうするのだ」と、相手をぐんぐん運動場の正面に引張つて来ると、くるりと後向きにさせて、パツと相手の襯衣を剥ぎとつた。すると青緑色の靄が立罩めた薄暗い光線の中に、瘡蓋だらけの醜い背中が露出された。
「これが絶対安静を要した躯なのか」と、教官は次の動作に移るため一寸間を置いた。
「不心得者!」この声と同時にピシリと
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