も態度もキビキビしてゐた。だが、かすかに言葉に――といふよりも心の矛盾に――つかへてゐるやうなところもあつた。正三がじろじろ観察してゐると、順一の視線とピツタリ出喰はした。それは何かに挑みかかるやうな、不思議な光を放つてゐた。……学徒の合唱が終ると、彼女たちはその日から賑やかに工場へ流れて行つた。毎朝早くからやつて来て、夕方きちんと整列して先生に引率されながら帰つてゆく姿は、ここの製作所に一脈の新鮮さを齎し、多少の潤ひを混へるのであつた。そのいぢらしい姿は正三の眼にも映つた。
 正三は事務室の片隅で釦を数へてゐた。卓の上に散らかつた釦を百箇づつ纏めればいいのであるが、のろのろと馴れない指さきで無器用なことを続けてゐると、来客と応対しながらじろじろ眺めてゐた順一はとうとう堪りかねたやうに、「そんな数へ方があるか、遊びごとではないぞ」と声をかけた。せつせと手紙を書きつづけてゐた片山が、すぐにペンを擱いて、正三の側にやつて来た。「あ、それですか、それはかうして、こんな風にやつて御覧なさい」片山は親切に教へてくれるのであつた。この彼よりも年下の、元気な片山は、恐しいほど気がきいてゐて、いつも彼
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