やってくるのか、つきつめて考えれば茫《ぼう》としてわからないのだった。
「小さい子供だけでも、どこかへ疎開させたら……」康子は夜毎《よごと》の逃亡以来、頻《しき》りに気を揉《も》むようになっていた。「早く何とかして下さい」と妻の光子もその頃になると疎開を口にするのであったが、「おまえ行ってきめて来い」と、清二は頗《すこぶ》る不機嫌であった。女房、子供を疎開させて、この自分は――順一のように何もかもうまく行くではなし――この家でどうして暮してゆけるのか、まるで見当がつかなかった。何処《どこ》か田舎《いなか》へ家を借りて家財だけでも運んでおきたい、そんな相談なら前から妻としていた。だが、田舎の何処にそんな家がみつかるのか、清二にはまるであてがなかった。この頃になると、清二は長兄の行動をかれこれ、あてこすらないかわりに、じっと怨《うら》めしげに、ひとり考えこむのであった。
 順一もしかし清二の一家を見捨ててはおけなくなった。結局、順一の肝煎《きもいり》で、田舎へ一軒、家を借りることが出来た。が、荷を運ぶ馬車はすぐには傭《やと》えなかった。田舎へ家が見つかったとなると、清二は吻《ほっ》として、
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