正三に安堵《あんど》の感を抱《いだ》かせるのであった。そこへ清二のジャンパー姿が見えた。顔は颯爽《さっそう》と笑《え》みを浮べようとして、眼はキラキラ輝いていた。……上田と清二が表の方へ姿を消し、正三ひとりが椅子に腰を下ろしていた時であった。彼は暫《しばら》くぼんやりと何も考えてはいなかったが、突然、屋根の方を、ビュンと唸《うな》る音がして、つづいて、パリパリと何か裂ける響がした。それはすぐ頭上に墜《お》ちて来そうな感じがして、正三の視覚はガラス窓の方へつっ走った。向うの二階の檐《のき》と、庭の松の梢《こずえ》が、一瞬、異常な密度で網膜に映じた。音響はそれきり、もうきこえなかった。暫くすると、表からドヤドヤと人々が帰って来た。「あ、魂消《たまげ》た、度胆《どぎも》を抜かれたわい」と三浦は歪《ゆが》んだ笑顔をしていた。……警報解除になると、往来をぞろぞろと人が通りだした。ざわざわしたなかに、どこか浮々した空気さえ感じられるのであった。すぐそこで拾ったのだといって誰かが砲弾の破片を持って来た。
 その翌日、白鉢巻をした小さな女学生の一クラスが校長と主任教師に引率されてぞろぞろとやって来ると
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