夏の花
原民喜

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)請《こ》う

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三四人|横臥《おうが》していた。

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「けものへん+章」、第3水準1−87−80]《のろ》の
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わが愛する者よ請《こ》う急ぎはしれ
香《かぐ》わしき山々の上にありて※[#「けものへん+章」、第3水準1−87−80]《のろ》の
ごとく小鹿のごとくあれ
[#ここで字下げ終わり]



 私は街に出て花を買うと、妻の墓を訪れようと思った。ポケットには仏壇からとり出した線香が一束あった。八月十五日は妻にとって初盆《にいぼん》にあたるのだが、それまでこのふるさとの街が無事かどうかは疑わしかった。恰度《ちょうど》、休電日ではあったが、朝から花をもって街を歩いている男は、私のほかに見あたらなかった。その花は何という名称なのか知らないが、黄色の小瓣の可憐《かれん》な野趣を帯び、いかにも夏の花
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