点]と喚《わめ》き、頭に手をやって立上った。嵐《あらし》のようなものの墜落する音のほかは真暗でなにもわからない。手探りで扉を開けると、縁側があった。その時まで、私はうわあ[#「うわあ」に傍点]という自分の声を、ざあーというもの音の中にはっきり耳にきき、眼が見えないので悶《もだ》えていた。しかし、縁側に出ると、間もなく薄らあかりの中に破壊された家屋が浮び出し、気持もはっきりして来た。
 それはひどく厭《いや》な夢のなかの出来事に似ていた。最初、私の頭に一撃が加えられ眼が見えなくなった時、私は自分が斃《たお》れてはいないことを知った。それから、ひどく面倒なことになったと思い腹立たしかった。そして、うわあ[#「うわあ」に傍点]と叫んでいる自分の声が何だか別人の声のように耳にきこえた。しかし、あたりの様子が朧《おぼろ》ながら目に見えだして来ると、今度は惨劇の舞台の中に立っているような気持であった。たしか、こういう光景は映画などで見たことがある。濛々《もうもう》と煙る砂塵《さじん》のむこうに青い空間が見え、つづいてその空間の数が増えた。壁の脱落した処《ところ》や、思いがけない方向から明りが射《さ
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