た。かと思ふと、警防団の服装をした男が、火傷で膨脹した頭を石の上に横たへたまま、まつ黒の口をあけて、「誰か私を助けて下さい、ああ、看護婦さん、先生」と弱い声できれぎれに訴へてゐるのである。が、誰も顧みてはくれないのであつた。巡査も医者も看護婦も、みな他の都市から応援に来たものばかりで、その数も限られてゐた。
私は次兄の家の女中に附添つて行列に加はつてゐたが、この女中も、今はだんだんひどく膨れ上つて、どうかすると地面に蹲りたがつた。漸く順番が来て加療が済むと、私達はこれから憩ふ場所を作らねばならなかつた。境内到る処に重傷者はごろごろしてゐたが、テントも木蔭も見あたらない。そこで、石崖に薄い材木を並べ、それで屋根のかはりとし、その下へ私達は這入り込んだ。この狭苦しい場所で、二十四時間あまり、私達六名は暮したのであつた。
すぐ隣にも同じやうな恰好の場所が設けてあつたが、その莚の上にひよこひよこ動いてゐる男が、私の方へ声をかけた。シヤツも上衣もなかつたし、長ずぼんが片脚分だけ腰のあたりに残されてゐて、両手、両足、顔をやられてゐた。この男は、中国ビルの七階で爆弾に遇つたのださうだが、そんな姿
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