ヒロシマの声
ペン・クラブ広島の会にて
原民喜
ペン・クラブの一行に加わって私はこんど三年振りに広島を訪れた。街は既に五年前の廃墟の姿とは著しく変っていて、見たところ惨劇の跡を直かに生々しく伝えるものは、あまりなかった。かつての凄惨な印象は一応とりかたづけられて、今はひたすら平和都市としての更生の途上にあるもののようだ。ガスタンクに残る光線の跡も、大阪銀行の石に偲ばれる人影も、産業奨励館の残骸も、それらは既に名所旧跡の趣を呈し、嘗てここが無数の屍で覆われ、死の叫びにつつまれていた土地のようでもない。そういえば、八月六日のあれは、あまりに急速で巨大な破壊だったので、人間らしい怨恨の宿る暇さえなかったのだろうか。陰々として地下に潜む亡霊といったようなものは、現在の広島の土地からは感じられない。だがそれでいて、何か無気味で割りきれない漠としたものが、この土地に住む者にも、ここへ訪ねて来る人たちの上にも、ひとしく胸に迫ってきて離れないのだ。
ペン・クラブの滞在中は恰度、天候も桜のあとの麗かな快晴に恵まれ、中国山脈と瀬戸内海を背景にした、この街はまことに和やかな表情をしていた。だが、それ
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