Aそれまでに、私のためにもっと便利な乗り物を用意してくれました。だが、それはあたりまえのことで、なにぶんこの前の旅行で、私は非常に疲れ、八時間もぶっとおしに見世物にされたので、ヘト/\になってしまいました。私が元気を取り返すには、少くとも三日はかゝりました。
 ところが、私の評判を聞いて、あちこちの紳士たちが、百マイルも先から、今度は主人の家に押しかけて来ました。私は家でも休めなくなりました。毎日々々、私はほとんど身体の休まる暇はなかったのです。
 これはもうかりそうだ、と主人は、今度は私を街から街へつれ歩いて見世物にすることを思いつきました。長い旅行に必要な支度をとゝのえ、家の始末をつけると、細君に別れを告げて、一七〇三年の八月十七日(これは私がこの国へ着いてからちょうど二ヵ月目でした)に出発しました。主人は、この国のほゞ真中にある、首都をめざして行くのでしたが、家からそこまでは、三千マイルの道のりでした。
 主人は娘のグラムダルクリッチを自分の後に乗せました。私は箱に入れられ、その箱は娘の腰に結びつけてありました。彼女は箱の内側を一番やわらかい布地ですっかり張ってくれ、下には厚い敷
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