オます。私の乳母が、藁の切れっぱしを渡してくれると、私はそれを槍のつもりにして、若い頃習った槍の術をして見せます。
その日の見物人は、十二組あったので、私は十二回も、こんなくだらないまねを繰り返さねばならなかったのです。そう/\、私は疲れて腹が立って、すっかり、へばってしまいました。
私を見た連中が、これは素晴しいという評判を立てたものですから、見物人はどっと押しかけて、大入満員でした。主人は、私の乳母以外には、誰にも私に指一本さわらせません。そのうえ、危険を防ぐために、テーブルのまわりを、ぐるりとベンチで取り囲んで、誰の手にもとゞかないようにしました。
それでも、いたずらの小学生が、私の頭をねらって榛の実を投げつけたものです。あたらなかったので助かりましたが、もしあたったら、私の頭は滅茶苦茶にされたでしょう。なにしろ榛の実といっても、南瓜ぐらいの大きさだし、それに猛烈な勢で飛んで来たのです。しかし、このいたずら小僧は、なぐられて部屋から追い出されてしまいました。
市日がすんで、私たちは家に戻りましたが、主人はこの次の市日にも、またこの見世物をやるという広告を出しました。そして
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