ヘ、仲間が殺されたのを見ると、あわてゝ逃げ出しました。逃げようとするところを、私は肩に一刀浴せかけたので、タラ/\血を流しながら行ってしまいました。この大格闘のあとで、私はベッドの上をあちこち歩きながら、息をしずめ、元気を取り戻しました。鼠といっても、大きさはマスティフ種の犬ぐらいあって、それに、とても、すばしこくて、獰猛《どうもう》な奴でした。もし私が裸で寝ていたら、きっと八つ裂きにされて食べられたでしょう。
 死んだ鼠の尻尾をはかってみると、二ヤードぐらいありました。まだ血を流して横になっている死骸を、ベッドから引きずりおろすのは、実に、厭なことでした。それに、まだ、少し息が残っているようでしたが、これは、首のところへ深く剣を突き刺して、息の根をとめてしまいました。
 それから間もなく、細君が部屋に入って来ました。私が血まみれになっているのを見て、細君は駈けよって、抱き上げてくれました。私は鼠の死骸を指さし、そして、笑いながら、怪我はなかったと手まねで教えました。細君は大喜びでした。女中を呼ぶと、死骸を火箸ではさんで、窓から捨てさせました。それから、彼女は私をテーブルの上に乗せてく
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