Bート以上もある、がらんとした、大きな部屋に、たった一人、幅二十ヤードもある大きなベッドで、寝ているのに気がつきました。すると、私はなんだか悲しくなってしまいました。
細君は家事の用で外に出て行ったらしく、姿が見えません。私は錠をおろした部屋に、一人、とじこめられているのです。このベッドは床から八ヤードもあります。私は下へおりたかったのですが、声を出して叫ぶ元気もなくなっていました。しかし、たとえ呼んでみても、とても私の声では、この部屋から家族のいる台所までは、とゞかなかったでしょう。
ところが、そのとき、鼠が二匹、ベッドの帷《とばり》をのぼって来ると、ベッドの上をあちこち嗅ぎまわって、ちょろ/\走り出しました。一匹などは、も少しで、私の顔に這《は》いのぼろうとしたのです。私はびっくりして跳び起きると、短剣を抜いて、身構えました。だが、この恐ろしい獣どもは、左右からドタ/\とおそいかゝって来て、とう/\、一匹は私の襟首に足をかけました。しかし、私は幸運にも、彼に噛みつかれる前に、彼の腹に、プスリと短剣を突き刺していました。
たちまち、彼は私の足許に倒れてしまいました。もう一匹の方
前へ
次へ
全249ページ中88ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
原 民喜 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング