Bート以上もある、がらんとした、大きな部屋に、たった一人、幅二十ヤードもある大きなベッドで、寝ているのに気がつきました。すると、私はなんだか悲しくなってしまいました。
 細君は家事の用で外に出て行ったらしく、姿が見えません。私は錠をおろした部屋に、一人、とじこめられているのです。このベッドは床から八ヤードもあります。私は下へおりたかったのですが、声を出して叫ぶ元気もなくなっていました。しかし、たとえ呼んでみても、とても私の声では、この部屋から家族のいる台所までは、とゞかなかったでしょう。
 ところが、そのとき、鼠が二匹、ベッドの帷《とばり》をのぼって来ると、ベッドの上をあちこち嗅ぎまわって、ちょろ/\走り出しました。一匹などは、も少しで、私の顔に這《は》いのぼろうとしたのです。私はびっくりして跳び起きると、短剣を抜いて、身構えました。だが、この恐ろしい獣どもは、左右からドタ/\とおそいかゝって来て、とう/\、一匹は私の襟首に足をかけました。しかし、私は幸運にも、彼に噛みつかれる前に、彼の腹に、プスリと短剣を突き刺していました。
 たちまち、彼は私の足許に倒れてしまいました。もう一匹の方
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