ヲてくれたことがあります。私の顔は、地上からはるかに見上げている方が、美しいそうです。私の掌に乗せられて、近くで見ると、私の顔は大きな孔だらけで、髯の根はいのしゝ[#「いのしゝ」に傍点]の毛の十倍ぐらいも堅そうで、顔の色の気味の悪いことゝいったらないそうです。
 ところで、いまこのテーブルに坐っている巨人たちは、なにも片輪などではないのです。顔だちはみんなよくとゝのっていました。ことに主人など、私が六十フィートの高さから眺めてみると、なかなか立派な顔つきでした。
 食事がすむと、主人は仕事に出かけて行きました。彼は細君に、私の面倒をみてやれ、と命令しているようでした。その声や身振りで、私にはそれがわかったのです。私は大へん疲れて、睡くなりました。すると細君は、私の睡そうな顔に気がつき、自分のベッドに寝かして、綺麗な白いハンカチを私の上にかけてくれました。ハンカチといっても、軍艦の帆よりまだ大きいくらいで、ゴツ/\していました。
 私は二時間ばかりも眠りました。私は国へ帰って妻子と一しょに暮している夢をみていました。ふと目がさめて、あたりを見まわすと、私は、広さ二三百フィート、高さ二百フ
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