ス。そのときから、私はもう、猫や犬を怖がらなくなりました。犬も、この家には、三四頭ばかりいたのです。それが部屋の中に入って来ても、私は平気でした。一匹はマスティフで、大きさは象の四倍ぐらいありました。もう一匹は、グレイハウンドで、これはとても背の高い犬でした。
食事がしまい頃になると、乳母が赤ん坊を抱いてやって来ました。赤ん坊は、私を見つけると、玩具に欲しがって、泣きだしました。その赤ん坊の泣声は、なんとももの凄い声でした。母親は私をつまみ上げて、赤ん坊の傍に置きました。赤ん坊は、いきなり、私の腰のあたりを引っつかんで、頭を口の中に持ってゆきました。私がワッと大声でうめくと、赤ん坊はびっくりして、手を離します。そのとき細君が前掛をひろげて、うまく受けてくれたので、私は助かりました。でなかったら、首の骨ぐらい折れたでしょう。
乳母はガラ/\を持って来て、赤ん坊の機嫌をとろうとしました。そのガラ/\というのは、空鑵に大きな石を詰めたようなもので、それを綱で子供の腰に結びつけるのでした。でも、赤ん坊はまだ泣きつゞけていました。それで、とう/\乳母は胸をひろげて、乳房を出し、赤ん坊の口に持
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