ウい錘《おもり》のついた紐《ひも》が、この島からおろされると、下にいる人民は、それに手紙をくゝりつけます。そして、組はすぐまた吊《つ》り上げられます。ちょうど、子供が凧《たこ》の糸の端に、紙片を結びつけるようなものです。ときには、下から持って来る酒や食料が、滑車でこの島へ引き上げられることもあります。
この国の人たちは、家の作り方が非常に下手です。壁はゆがみ、どの室も直角になっていないのです。彼等は、定規や鉛筆でする紙の上の仕事は大へんもっともらしいのですが、実地にやらしてみると、この国の人間ぐらい、下手で不器用な人間はいません。彼等は数学と音楽には非常に熱心ですが、そのほかの問題になると、これくらい、ものわかりの悪い、でたらめな人間はありません。理窟を言わせれば、さっぱり筋が通らないし、むやみに反対ばかりします。彼等は頭も心も、数学と音楽しかわからないのです。
それに、この国の人たちは、いつも何か心配していて、そのために一分間も心は安らかでないのですが、他の人間から見たら、それは何でもないことを心配しているのでした。
その心配の種というのは、天に何か変ったことが起きはすまいか、
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