ニいうことです。たとえば、地球は絶えず太陽に向って近づいているのだから、今に吸い込まれるか、飲み込まれてしまうだろう、とか、あるいは、太陽の表面にはガスがだん/\固まってきて、今に日が射さなくなるときが来るだろう、とか、この前の彗星のときは、地球は星の尻尾になでられないで助かったが、今度、三十一年後に彗星が現れると、たぶん、われ/\はいよ/\滅ぼされるだろう、というのです。そうかとおもえば、太陽は毎日光線を出しているので、やがては、蝋燭のように溶けてなくなるだろう、そうすると、地球も月も、みんななくなってしまうだろう、などという心配でした。
彼等は朝から晩まで、こんなふうなことを考えて、ビク/\しています。夜も、よく眠れないし、この世の楽しみを味おうともしないのです。朝、人に会って、第一にする挨拶は、
「太陽の工合はどうでしょう。日の入り、日の出に、変りはございませんか。」
「今度、彗星がやって来たら、どうしたものでしょうか。なんとかして助かりたいものですなあ。」
と、こんなことを言い合うのです。それはちょうど、子供が幽霊やお化けの話が怖くて眠れないくせに聞きたがるような気持でした
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