ネって、私たちの方を振り向かれました。それでやっと、私たちの来たことを気づかれたようです。陛下が、何か一言二言言われたかとおもうと、叩き棒を持った若者が、私の傍へやって来て、静かに私の耳を叩きはじめました。私は手まねで、そんなものは要らないということを伝えてやりました。
陛下はしきりに何か私に質問されているらしいのでした。で、私の方もいろんな国の言葉で答えてみました。けれども、向うの言うこともわからなければ、こちらの言うこともまるで通じません。
それから、私は陛下の命令で宮殿の一室に案内され、召使が二人、私に附き添いました。やがて、食事が運ばれてきました。そして、四人の貴族たちが、私と一しょにテーブルに着きました。食事中、私はいろんな品物を指さして、何という名前なのか、聞いてみました。すると、貴族たちは、叩き役の助けをかりて、喜んで答えてくれました。私は間もなく、パンでも、飲物でも、欲しいものは何でも言えるようになりました。
食事がすむと、貴族たちは帰りました。そして今度は、陛下の命令で来たという男が、叩き役をつれて、入って来ました。彼はペン、インキ、紙、それに、三四冊の書物を持
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