オれないからです。
 ところで、私はこの国の人々に案内されて、階段を上り、島の上の宮殿へつれて行かれたのですが、そのとき、私は、みんなが何をしているのか、さっぱり、わかりませんでした。階段を上って行く途中でも、彼等は考えごとに熱中し、ぼんやりしてしまうのです。そのたびに、叩き役が、彼等をつゝいて、気をはっきりさせてやりました。
 私たちは宮殿に入って、国王の間に通されました。見ると、国王陛下の左右には、高位の人たちが、ずらりと並んでいます。王の前にはテーブルが一つあって、その上には、地球儀や、そのほか、種々さま/″\の数学の器械が一ぱい並べてあります。なにしろ今、大勢の人がどか/\と入ったので、騒がしかったはずですが、陛下は一向、私たちが来たことに気がつかれません。陛下は今、ある問題を一心に考えておられる最中なのです。私たちは、陛下がその問題をお解きになるまで、一時間ぐらい待っていました。
 陛下の両側には、叩き棒を待った侍童が、一人ずつついています。陛下の考えごとが終ると、一人は口許を、一人は右の耳を、それ/″\軽く叩きました。
 すると陛下は、まるで急に目がさめた人のように、ハッと
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