ィもうと、窓の上あたりまで波が見えて、部屋の中が暗くなります。これは助かるのかしらと、ふと私は希望が湧いてきました。そこで、私はできるだけ口を窓に近づけて、大声で助けを呼んでみました。それからステッキの先にハンカチを結んで、穴から出して振ってみました。もし船でもそばにいるのなら、この箱の中に私がいることを知ってもらいたかったからです。
しかし何の手応えもないのでした。たゞ、部屋がドン/\動いて行っていることだけが、はっきりわかります。それから一時間ばかりして、突然、私の箱に何か固いものが突きあたりました。と、箱の屋根の上に綱を通すような物音が聞えてきました。それから、そろ/\と箱は引き上げられるようでした。私はステッキの先のハンカチを振り、声をかぎりに呼んでみました。すると、それに答えて大きな叫び声が二三度繰り返されてきました。やがて頭の上で足音がしたかとおもうと、誰か穴の口から大声で、
「誰かいるなら返事をしろ。」
とどなりました。相手は英語で言ってくれてるのです。
「私はイギリス人です。今こゝでひどい目に会っているのです。何とかうまく助け出してください。」
と、私は一生懸命、
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