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それから一分もすると、こんどは箱がどん/\上にあがってゆき、窓の方から光が見えだしました。それで海の中へ落ちたことがはじめてわかりました。箱は私の身体や家具などの重みで、水の中に浸りながら浮いています。
私はそのとき、こう思いました。これはたぶん、箱をさらって逃げた鷲が、仲間の二三羽に追っかけられたのでしょう。そして、お互に箱の獲物を争い合っているうちに、思わず鷲は箱を放したのでしょう。この箱の底には鉄が張ってあるため、海に落ちても壊れなかったのです。部屋はぴったり、しまっていたので、水にも濡れなかったのです。そこで、私はハンモックからおりると、まず天井の引窓を開けて空気を入れ替えました。
私の箱は今にもバラ/\になるかもしれないのでした。大きな波一つで、箱はすぐひっくりかえるかもしれませんし、窓ガラス一つ壊れただけで駄目になります。こんな、あやうい状態で、私の箱は四時間ばかりたゞよっていました。ところが、この箱の窓のない側に、そのときふと何か軋むような音が聞えました。それから間もなく、何か私の箱が、海の上を引っ張られているような気がしました。とき/″\、グイと引かれたかと
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