ト呼んでみましたが、誰も答えてくれません。窓の方へ目をやって見ると、目にうつるものは雲と空ばかり、そして私のすぐ頭の上で、何か羽ばたきのような物音が聞えるのでした。
 で、私は自分がどんなことになっているのか、わかりかけました。今、一羽の鷲が、私の箱をくわえているのですが、これはちょうどあの亀の子をつかまえたときするように、やがて箱を岩の上に落して割り、私の身体をほじくり出して食うつもりなのでしょう。というのは、鷲はよく臭を嗅ぎつける鳥ですから、たとえ獲物が上手に隠れていても、すぐ見つけ出すので、私が箱の中にいることも、ちゃんともう知っているにちがいありません。
 しばらくして、羽音が烈しくなったかと思うと、箱はまるで風の中の看板のようにひどく揺れだしました。と今度は何かズシンと鷲にぶっつかる音がして、突然、私はまっ逆さまに落ちて行くのを感じました。恐ろしい速さで、ほとんど息もできないくらいでした。それから一分ぐらいたつと、私の耳にはゴー/\とナイヤガラの滝のような音がして、何か凄いものに箱がぶつかっているように思えました。ふと、落ちてゆくのがやんだかとおもうと、あたりは真暗になりまし
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