Bそうすれば、相手に傷ぐらい負わせて、手を引っ込めさせたでしょう。」
 と、私はきっぱり申し上げました。
 けれども、私の言うことに、みんなはどっと噴きだしてしまいました。これで私はつく/″\考えました。はじめから問題にならないほど差のある連中の中で、いくら自分を立派に見せようとしても駄目だということがわかりました。
 国王は非常に音楽が好きで、だから、よく宮廷では音楽会がありました。私もとき/″\、つれて行かれて、テーブルの上に箱を置いてもらって聞いたものですが、なにしろ大へんな音で、曲も何もわからないのです。軍楽隊の太鼓とラッパをみんな持って来て耳許で鳴らすより、もっと凄い騒がしさです。ですから、私はいつも一番遠いところに箱を置いてもらい、扉も窓もすっかり閉め、カーテンまでおろします。そうすると、それでまず、どうにか聞けるのでした。
 国王はまた非常に賢い方でしたが、よく私を箱のまゝつれて来て、陛下のテーブルの上に置かれます。私は椅子を一つ持って、箱から出て来ると、陛下の近くの箪笥の上に坐ります。そこで、私の顔と陛下の顔が向い合いになります。こんなふうにして、私たちは何度も話し合い
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