ワしたが、ある日、私は思いきって、こんなことを申し上げました。
「一たい陛下がヨーロッパなどを軽蔑なさるのは、どうも賢い陛下に似合わぬことのようです。智恵はなにも身体の大きさによるものではありません。いや、あべこべの場合だってあるようです。蜜蜂とか蟻とかは、ほかのもっと大きな動物たちよりも、はるかに勤勉で、器用で、利口だと言われています。私なども、陛下は取るに足りない人間だとお考えでしょうが、これでも、いつか素晴しいお役に立つかもしれません。」
 陛下は、私の話を一心に聞いておられましたが、前よりよほど私をよくわかってくださるようでした。そして、
「それではひとつ、イギリスの政治について、できるだけ正確に話してもらいたい。」
 と仰せになりました。
 そこで、私はわが祖国の議会のこと、裁判所のこと、人口について、宗教について、或いは歴史のことまで、いろ/\とお話し申し上げることになりました。私は王に何回もお目にかゝって、毎回数時間、この話をお聞かせしたのですが、王はいつも非常に熱心に聞いてくださいました。そして、ノートには、一つ/\、後で質問しようと思われるところや、私の話の要点を書き
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