頼ッたちが扇で風を送ってくれます。私はたゞ舵をとっていればいゝわけでした。彼女等があおぐのに疲れると、今度は侍童たちが口で帆を吹くのです。すると、私はおも舵を引いたり、とり舵を引いたりして、思うまゝに乗りまわすのでした。それがすむと、グラムダルクリッチは、いつも私のボートを自分の部屋に持って帰り、釘にかけて、かわかすのでした。
この水箱は、三日おきに水を替えることになっていましたが、あるとき、水を替える役目の召使が、うっかりしていて、一匹の大蛙を手桶から一しょに流し込んでしまいました。はじめ、蛙はじっと隠れていたのですが、私がボートに乗り込むと、うまい休み場所が出来たとばかりに、ボートの方に這い上って来ました。船はひどく一方へ傾くし、私はひっくりかえらないように、その反対側によって、うんと力を入れていなければなりません。
いよ/\ボートの中に入り込んで来ると、いきなりボートの半分の長さを、ひょいと跳び越し、それから私の頭の上を前や後へしきりに跳び越えるのです。そしてそのたびに、蛙はあの厭な粘液を、私の顔や着物に塗りつけるのです。その顔つきの大きなことゝいったら、こんな醜い動物が世の
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