にいたかと驚かされます。しかし、私がオールの一本を取って、しばらく打ちのめしてやっているうちに、蛙はとう/\、ボートから跳び出してしまいました。
 私がこの国で一番あぶない目に会ったのは、宮廷の役人の一人が飼っていた猿が、私にいたずらしたときのことです。
 ある日、グラムダルクリッチは、用たしに出かけて行くので、私の箱を自分の部屋に入れて、鍵をおろしておきました。大へん暑い日でしたが、部屋の窓は開け放しになっており、私の住まっている箱の戸口も窓も、開け放しになっていました。私が机に向って、静かにものを考えていると、何か窓から跳び込んで、部屋の中をあちこち歩きまわるような音がするのです。私はひどく驚きましたが、じっと椅子に坐ったまゝ、見ていました。
 今、部屋に入って来た猿は、いゝ気になって、はねまわっているのでした。そのうちに、とう/\猿は私の箱のところへやって来ました。彼は、この箱がよほど気に入ったのか、さも面白く珍しそうに戸口や窓から、いち/\のぞきこむのです。
 私は箱の一番奥の隅へ逃げ込んでいましたが、猿が四方からのぞきこむので、怖くてたまりません。すっかりあわてゝいたので、
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