黷スのを、おぼえていますが、こういう巨大な、ナイフやフォークが、十あまりも並んだ有様、こんな恐ろしい光景は、全く見たことがないと思いました。
 この国では毎週、水曜日がお休みの日なので、この日には、両陛下はじめ、王子王女殿下も、国王陛下のお部屋で一しょに食事をされることになっています。私は今では国王陛下にも、すっかりお気に入りになっていたので、この会食のときには、いつも私の椅子と食卓が、陛下の左手の塩壷の前に置かれました。
 陛下は、私と話をするのがお好きで、ヨーロッパの風俗、宗教、法律、政治、学問などについていろ/\、お質問になります。私もできるだけ、よくお答え申し上げるのでした。陛下は頭のいゝ方ですから、私の申し上げることが、すぐおわかりです。そして、なか/\賢いことをおっしゃいます。
 けれども、一度こんなことがありました。私がイギリスのことや、貿易のことや、戦争や、政党のことを、あまり、いゝ気になってしゃべりましたところ、陛下は、右手に私をつまみ上げて、左の手で静かに私をなでながら、大笑いされました。それから、陛下の後に大きな白い杖を持って控えている首相をかえりみて、こう言われ
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