ワした。
「人間なんて、いくら威張ったところで、つまらないものではないか。このちっぽけな虫けらでさえ、まねができるのだからな。どうだ、こんな奴等にでも、位とか称号があるというし、家とか市とか呼ぶ、ちっぽけな巣や穴なども作るらしい。それに、お洒落をしてみたり、戦争してみたり、喧嘩したり、欺いたり、裏切ったりするというのだからな。」
 と、大たいこんなふうな調子で言われましたので、自分の祖国がこんなに軽蔑されるのを聞いては、私は腹が立って、顔が真赤になってしまいました。しかし、よく/\考えなおしてみると、私は陛下に恥をかゝされたのかどうか、あやしくなりました。というのは、私はこうして幾月か、この国民の姿や話しぶりに馴れ、見るものがみな、この国では人間の大きさに比例して大きい、ということがわかってきたので、今では、もうはじめのように、その大きさに驚いたり恐れたりしなくなりました。ですから、今では、もしイギリスの貴族たちが晴着を着て、さも上品らしく、気どった恰好で、歩いたり、おじぎをしたり、おしゃべりしているのを見たら、私はかえって、噴き出すかもしれません。ちょうど、今この国の陛下や貴族が、私
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