の中の私
私は毎日、忙しく動きまわらされたので、二三週間もすると、とう/\身体の調子が変になりました。主人は私のおかげで、もうければもうけるほど、ます/\欲ばりになりました。私はまるで、食事も欲しくなくなり、骸骨のように痩せ細りました。主人はそれを見ると、これは死んでしまうにちがいない、と考え、これが生きているうちに、できるだけもうけておこう、と決心したようです。
ちょうど、彼がこんなことを考えているところへ、宮廷から一人の使者がやって来ました。王妃と女官たちのお慰みにするのだから、すぐ私をつれて来い、という命令なのです。これは、女官たちの中にもう私を見物したものがあって、私の振舞いの美しいこと、賢いことなど、いろ/\珍しい話を申し上げていたからです。
さて宮廷に私が引き出されると、王妃や女官たちは、私の物腰、態度を見て、大へん面白がりました。私はさっそくひざまずいて、王妃の御足にキスすることをお願いしました。しかし、慈深《めぐみぶか》い王妃は、手の小指を差し出されました。私はテーブルの上に置かれていたので、その小 指を両腕でかゝえて、その先にうや/\しく唇をあてました。
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