ニころにある椅子に、私たちは腰をおろしました。
この酋長は、飛島の言葉をよく知っていました。それで私に、旅行の話を少し聞かせてほしい、と言います。そして、彼は、
「うん、召使たちはいない方がいゝな。」
と言いながら、ヒョイと指を動かしました。
すると、今まで、酋長のまわりにいた召使たちが、一ペんに、すーっと消えてしまいました。私はびっくりして、しばらくは口もきけませんでした。
「いや、何でもないのですよ。怖がることはありません。」
と酋長は言ってくれます。
見ると、私の連れの紳士は、たび/\こんなことには馴れているらしく、まるで平気な顔をしていました。それで、私もやっと安心して、旅行の話を手短に話しました。
それでも、私は話しながら、とき/″\どうも気になって、あの召使たちが消えてしまったあたりを振り返って見ていました。
それから私たちは、酋長と一しょに食事をしました。すると、今度はまた別の幽霊どもが、食事を運んで来て、給仕してくれるのでした。それを見ても、私はもう最初ほど、ビク/\しなくなっていました。夕方まで私たちは酋長のところにいました。彼は泊ってゆけとすゝめましたが、私たちは無理に帰りました。私たちは、島の民家に泊り、翌朝になると、また酋長のところへ訪ねて行きました。
こんなふうにして、私たちは十日間、この島にいました。毎日、大がい酋長のところへ行って、夜は、民家の宿へ戻るのです。私は幽霊にも馴れてしまったので、もう三四回目から平気になりました。いや、怖いのはまだ少し怖かったのですが、それよりも、とにかく、これが珍しくてたまらなくなっていたのです。
酋長は私にこんなことを言いだしました。
「私は誰でも死人の中から、あなたの好きな人間を呼び出してあげます。そして、何でも、あなたが聞きたいと思うことを聞けば、死人に返事させます。世界はじまって以来、今日まで、どんな死人でも、呼び出すことができます。」
私は酋長の厚意を大へん有り難く思いました。ちょうど、私たちのいた部屋からは、庭園がすっかり見わたせるようになっていました。
私はまず最初に、何か雄大なものが見たいと思いました。
「それではひとつ、アレキサンダー大王が戦場に立っている姿を見せてください。」
と私は言いました。
酋長は指先をちょっと動かして合図しました。すると、私たちのいる窓の下の庭園に、戦場の光景が現れました。それから、アレキサンダー大王は、私たちの部屋へ呼ばれてやって来ました。しかし、彼の話すギリシャ語は、私にはどうもよく通じませんでした。
次には、ハンニバルがアルプスの山を越すところを見せてもらいました。
その次には、シーザーとポンペイが、それ/″\、陣地に立って、戦争をはじめようとしているところを見せてもらいました。そして、シーザーが大勝利をするところも見ました。
私は次に、ひとつ最も偉い学者たちを見たいものだ、と思いました。そこで、酋長にこう頼みました。
「どうか、ホーマーとアリストテレスと、それから、その註釈家たちを、全部見せてください。」
すると、これはまた大へんな人数で、何百人という人間が、ぞろ/\と現れて来ました。私は一目見て、ホーマーとアリストテレスの顔はすぐわかりました。
ホーマーの方が背も高く、好男子でした。歩き方も、しゃんとしているし、それに、目はまるで人を突き刺すような、鋭い眼光でした。アリストテレスの方は、だいぶん腰が曲って、杖をついていました。それに髪も薄くなっているし、声にも力がないのでした。しかし、この二人の学者と、まわりの群衆とは、まるで何の縁故もないのだということは、私にもよくわかりました。
私はまる五日間、まだ/\、いろんな人間や学者たちと会いました。ローマの皇帝たちにも、大てい会いました。
いよ/\出発の日が来たので、私はグラブダブドリブの酋長と別れて、連れの紳士と一しょに、マルドナーダーへ帰りました。そして、この港で二週間ばかり待っていると、いよ/\、ラグナグ島行きの船が出ることになりました。この町の人たちは、大へん親切にしてくれて、私を、わざ/\船まで見送ってくれました。
航海は一ヵ月かゝりました。一度は暴風雨に会ったりしましたが、一七一一年四月二十一日に私たちの船はクルメグニグ河に入りまそした。
こゝは、ラグナグ国の東南にある港です。船は、この町から一リーグばかり手前で、錨《いかり》をおろし、水先案内に合図をしました。半時間もしないうちに、水先案内は二人連れでやって来ました。
ところが、船員の二三の者が、私のことを、外国人で、大旅行家だと、水先案内に話してしまったのです。するとまた、水先案内は、税関吏に、私のことを話しました。そのために、私は上陸すると、さっそく厳しい
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