ナは、ヨーロッパなどでは、思いつくこともできない、珍しい方法で、教えられていました。まず、数学の問題と答案を、薄い煎餅の上に、特別製のインキで、清書しておきます。学生たちに、お腹を空っぽにさせておいて、この煎餅を食べさせます。その後三日間は、パンと水しか与えません。そうすると、煎餅が消化されるにつれて、それと一しょに問題は頭の方へ上ってゆくというのです。
しかし、これは実際には一度も成功していません。というのは、この煎餅を食べると、ひどく胸が悪くなるので、みんなこっそり抜け出して、吐き出してしまうからです。
私はつゞいて、政治の発明家たちを訪ねましたが、この教室では、あまり愉快な気持にはされなかったのです。
この教室で、一人の医者がこんなことを言っていました。一たい、大臣などというものは、どうも物忘れがひどくて困るとは、誰もが言う苦情ですが、これを防ぐには、次のようにすればいゝというのです。つまり、大臣に面会したときには、できるだけ、わかりやすい言葉で用件を伝えておいて、別れぎわに、一つ、大臣の鼻をつまむとか、腹を蹴るとか、腕をつねるとか、なんとかして、約束したことは忘れないようにさせるのです。そしてその後も、面会するたびに同じことを繰り返し、約束したことは実行してもらうようにするのです。
また、この医者は、政党の争いをうまく停める方法を発明していました。
それは、まず両方の政党から百人ずつ議員を選んできて、これを二人ずつ、頭の大きさの似たもの同士の組にしておきます。それから、それ/″\両方の頭を鋸《のこぎり》でひいて、二つに分けます。こうして切り取った半分の頭を、それ/″\取り換えっこして、反対派の頭にくっつけるのです。
私は、二人の教授がしきりに議論しているのを聞きました。どうしたら、人民を苦しめないで、税金を集めることができるかという議論でした。
一人の教授の意見では、悪徳や愚行に税金をかけるがいゝ、というのでした。ところが、もう一人の教授の意見では、人がその自惚れている長所に税金をかけたらいゝ、というのです。
3 幽霊の島
私は学士院を見物すると、もうこれ以上、この国にいても仕方がないと思い、また、イギリスへ帰りたくなりました。私はヨーロッパへの帰り途に、ひとつラグナグ島へ寄ってみようと考えていました。それから、さらに日本へも寄ってみたいと思いました。
私は荷物を運ばせるために、騾馬《らば》を二頭、それに案内人を一人やといました。あの貴族には、いろ/\世話になったのですが、私がいよ/\出発することになると、大へんな土産物までくれました。
ところで、マルドナーダという港に着いてみると、あいにく、ラグナグ島行きの船は当分出そうもないということがわかりました。そこで、私はその港町に、しばらく滞在することになりました。そのうち二三の知合いも出来、みんな私に親切にしてくれました。ラグナグ島行きが出るまでには、まだ一月はあると聞いて、私は、そこから五リーグばかりのところにある、グラブダブドリブという島を訪ねることにしました。この町の一流の紳士が、小帆船を一隻仕立てゝ、私と一しょに行ってくれました。
ところで、この『グラブダブドリブ』という名前は、『魔法使の島』という意味なのでした。この島は酋長がいて治めていましたが、住民は一人残らず魔法使でした。島で一番年長者が酋長になることになっていて、酋長は立派な宮殿に住んでいます。その庭園の中には、家畜、穀物、園芸などのために、小さな区切りが作ってあります。
酋長とその家族が使っている、召使というのが、実に奇妙なのでした。酋長は、魔法を使って、死人の中から、誰でも好きな者を呼び出すことができます。そして、二十四時間限り、(それ以上は駄目でしたが)呼び出した死人を、召使として使います。だが、一度呼び出して使ったら、まずその召使は、三ヵ月間は呼び出せないことになっていました。
私たちが、この島へ着いたのは、朝の十一時頃でしたが、連れの紳士はさっそく、酋長のところへ行って、
「実は外国人が一人、閣下にお目にかゝりたくて、わざ/\やって来たのですが、ひとつ会ってやってくださいませんか。」
と頼みました。
さっそくそれは許されたので、私たちは宮殿の門をくゞって行きました。門の両側には、鎧《よろい》、兜《かぶと》を着た兵士がズラリと並んでいます。そして、その兵士たちはなんともいえない恐ろしい顔つきをしているので、私は思わずゾッと寒気がしました。私たちは部屋を二つ三つ通り抜けましたが、どの部屋にも、同じような無気味な恰好の兵士が並んでいました。
やがて、酋長の室に来ると、私たちは三度頭を下げて、おじぎをしました。それから、挨拶がすむと、酋長の席から一番下の段の
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