サれから、非常に器用な建築家もいました。彼が思いついた新しい考えによると、家を建てるには、一番はじめに、屋根を作り、そして、だん/\下の方を作ってゆくのがいゝというのです。その証拠には、蜂や蟻などこれと同じやり方でやっているではないか、と彼は言っていました。
ある部屋には、生れながらの盲人が、盲人の弟子を使っていました。彼等の仕事は、画家のために、絵具を混ぜることでした。この先生は、指と鼻で、絵具の色が見分けられるというのです。しかし、私が訪ねたときは、先生はほとんど間違ってばかりいました。
また別の部屋には、鋤や家畜の代りに、豚を使って、土地を耕すことを発見したという男がいました。
それはこうするのです。まず、一エーカーの土地に、六インチおきに、八インチの深さに、どんぐり、なつめ、やし、栗、そのほか、豚の好きそうなものをたくさん埋めておきます。それから、六百頭あまりの豚を、そこへ、追い込むのです。すると、三日もすれば、豚どもは食物を探して、隅から隅まで掘り返すし、それに、豚の糞が肥料になるので、あとはもう種を蒔《ま》けばいゝばかりです。もっとも、これは、お金と人手がかゝるばかりで、作物はほとんど、取れなかったということです。
さて、その次の部屋に行くと、壁から天井から、くも[#「くも」に傍点]の巣だらけで、やっと人ひとりが出入りできる狭い路がついていました。私が入って行くと、
「くも[#「くも」に傍点]の巣を破っては駄目だ。」
と、いきなり大声でどなられました。それから、相手は私に話してくれました。
「そも/\くも[#「くも」に傍点]というものは、蚕などよりずっと立派な昆虫なのだ。くも[#「くも」に傍点]は糸を紡ぐだけでなく、織り方までちゃんと心得ている。だから、蚕の代りにくも[#「くも」に傍点]を使えば、絹を染める手数が省けることになる。」
そう言って、彼は、非常に美しい蠅をたくさん取り出して見せてくれました。つまり、くも[#「くも」に傍点]にこの美しい蠅を食べさせると、くも[#「くも」に傍点]の糸にその色がつくのだそうです。それに彼は、いろんな色の蠅を飼っていましたが、この蠅の餌として、何か糸を強くさすものを研究しているのでした。
それから私は、もう一人、有名な人を見ました。この人は、もう三十年間というものは、人類の生活を改良させることばかり、考えつゞけているのです。
彼の部屋は奇妙な品物で一ぱいでしたが、五十人の男たちが、彼の指図で働いていました。ある者は、空気をかわかして塊りにすることを研究していました。また、ある者は、石をゴムのように柔かくして、枕をこしらえようとしていました。生きた馬の蹄《ひづめ》のところを石にすることを考えている者もいました。
それから、これは私にはどうもよくわからないのですが、この有名な学者は、畑に籾《もみ》がらを蒔《ま》くことゝ、羊に毛の生えない薬を塗ることを、目下しきりに研究しているのだそうです。
私は道を横切って、向う側の建物に入りました。こゝの学士院には、学問の発明家がいるのでした。
私が最初に会った教授は、広い教室にいました。そこには四十人ばかりの学生が集っていました。教授は一つの便利な機械を考えていました。
その機械を使えば、どんな無学な人でも、何でも書けるのです。哲学、詩、政治学、数学、神学、そんなものが誰にでも、らくに書ける機械でした。教授は、その機械についていろ/\私に説明してくれました。
私はつゞいて国語学校を訪ねました。
こゝでは、三人の教授が国語の改良をいろ/\と熱心に考えていました。
一つの案は、言葉を全部しゃべらないことにしたらいゝ、というのでした。その方が簡単だし、健康にもよい、ものをしゃべれば、それだけ肺を使うことになるから、生命を縮める、というのです。
それで、その代りに、こんなことが発明されました。言葉というものは、物の名前だから、話をしようとするときには、その物を持って行って、見せっこをすれば、しゃべらなくても意味は通じるというのです。
しかし、これにも一つ困ることがあります。それはちょっとした話なら、道具をポケットに入れて持って行けばいゝのですが、話がたくさんある場合だと大へんです。そのときは、力の強い召使が、大きな袋に、いろんな品物を入れて、背負って行かなければなりません。
私は、二人の男が、ちょうどあの行商人のような恰好で、大きな荷物を背負っているのを、たび/\見たことがあります。二人の男が往来で出会うと、荷物をおろして、袋をほどき、中からいろんな品物を取り出します。こうして、かれこれ一時間ぐらい話がつゞいたかと思うと、品物を袋におさめて、荷物を背負って立ち上ります。
私はその次に数学教室を見物しました。
こゝ
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